夜明けのオクターブ

本のある風景を集めて

図書館小説まとめ 近代篇

ようやく卒論が終わり、無事提出できました!!

題目は「文学作品における図書館」です。

図書館の登場する小説、漫画を集めるにあたり、ついったーなどでご協力いただいた方に、心よりお礼申し上げます。分量などの関係により、直接卒論の中で使えなかったものもありますが、大変参考になりました。ありがとうございました!

そして、せっかく皆様に教えていただいたので、集まった図書館小説をブログでまとめてみようと思います。

長くなりそうなのでいくつかに分けようと思います。まずは近代小説篇。

近代の図書館が出てくる小説

*ここでは近代は明治から戦前を指すこととします

夏目漱石「野分」(『ホトトギス』明治40年1月)

夏目漱石「三四郎」(『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』明治41年9月1日~12月29日)

森鴎外渋江抽斎」(『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』大正5年1月13日~5月17日)

谷崎潤一郎「ハッサン・カンの妖術」(『中央公論』大正6年11月)

菊池寛「出世」(『新潮』大正9年1月)

宮沢賢治「図書館幻想」(生前未発表、〈1921.11-〉とメモがある)

芥川龍之介「大導寺信輔の半生」(『中央公論』大正14年1月)

幸田露伴「観画談」(大正14年7月)

菊池寛「半自叙伝」(『文藝春秋』昭和3年5月~)

林芙美子「文学的自叙伝」(『改造』昭和10年8月)

中島敦「文字禍」(『文学界』昭和17年2月)

宮本百合子「図書館」(『文芸』昭和22年3月)

中野重治「司書の死」(『新日本文学』第九巻第八号、昭和29年8月)

日記や随筆を入れるともっと、小説だけでもまだまだあると思うのですが、私が集めたのはこのようなかんじです。

ちなみに、日本で初めての図書館と言われているものは、明治5年にできた官立書籍館です。明治8年にできた東京書籍館東京図書館と名称を変え、明治18年に上野に移転、明治39年に帝国図書館となっています。文学作品に現れる図書館の多くは、上野にあった帝国図書館です。東京書籍館では入場料は無料でしたが、上野に移転後有料化し、戦後国立国会図書館となってから再び無料化しています。また、当時の図書館は今のように開架式ではなく、直接本を選べない閉架式が一般的で、図書館に入る際には履物を脱ぐなど、現在と違っているところが多くありました。

「図書館」という場所への印象は、漱石「三四郎」→菊池「出世」→中野「司書の死」と見ていくととても面白いです。

知の結晶であった図書館で明るい未来を描く「三四郎」と、図書館で学びながらも未来への不安がつのる「出世」、そして出世とは全く関係ない場所で生きる仙人のような司書の姿が描かれる「司書の死」。短期間でここまで印象が変わるものなのかと、読み比べて驚いてしまいます。

中野は、司書を「おとなしい人々、反抗的でない人々、破壊的でない人々、善良で、どこか人間の善さを感じている人々、しかし消極的なところのある人々」と描いており、このイメージがどこから来たのか興味深いところです。

このような現実の図書館とは別に、現代につながる「不思議な図書館」と分類したのが、谷崎「ハッサン・カンの妖術」と賢治「図書館幻想」です。

図書館で出会ったインド人との不思議な出会いを描いた「ハッサン・カン~」、タイトル以外に図書館の語の出てこない「図書館幻想」。特に賢治は短く不思議な物語で、最後までよくわからないままでした…。

ここまでが近代篇です。現在とは違う図書館の姿が見れるので、興味のある方は是非読んでみてください。