夜明けのオクターブ

本のある風景を集めて

『竜宮ホテル 迷い猫』

竜宮ホテル 迷い猫 (f-Clan文庫)竜宮ホテル 迷い猫 (f-Clan文庫)
(2011/10/17)
村山 早紀

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今月新創刊のf-Clan文庫の創刊ラインナップのひとつ。

一応ラノベレーベルとして創刊しているのですが、この『竜宮ホテル』にはなんと挿絵が全くないのです!来月のラインナップには高里椎奈さんもいて、ラノベヤングアダルトのグレーゾーンのようなものになるのかなぁ?と少し楽しみなレーベルです。

続きから感想。若干長いです。

ピュアフル文庫の『コンビニたそがれ堂』がずっと気になっていたのですが、実はまだ読めておらず、この『竜宮ホテル』が私にとっての初めての風早の物語です。『コンビニたそがれ堂』、『カフェかもめ亭』から続く、「風早」という街の物語になっているようですが、直接内容はつながっていないのでどこからでも楽しめそうです。

作家の水守響呼は、人でないものを見る左目をもっている。それは先祖が妖精と交わした約束のせいであり、周りの人を不幸にしてしまうものでもあった。高校生で作家としてデビューした響呼は、ひとり古びたアパートで暮らしながらこつこつと物語を書いていたが、大雨によりアパートが崩壊してしまう。しかし、たまたま出会った編集者の導きで、今はアパートとして人が暮らしている「竜宮ホテル」に住むことになる。しかも、不思議な猫耳としっぽのついた少女を拾い…。

物語の進み方は、お約束と言ってもいいものかもしれません。しかし、人と関わるのを避けて生きてきた響呼が、竜宮ホテルで少しずつ顔をあげて、世界を広げていくことが、分かっていても感動的です。特に響少年なんて、あんな風に思ってもらえたらどんなにか嬉しいだろうと、響呼をうらやましく思います。

また、人を不幸にすると思っている響呼と、幸運がゆえに不幸かもしれない寅彦の対比も良かったです。幸せの形は色々あって、もしかしたら私が今不幸だと思っていることも、少し見方を変えれば幸せなことかもしれないな、と考えさせられました。寅彦が卑屈にならず、明るいのもまた素敵だと思います。

児童書を書かれていた方なので、物語に流れている空気が始終優しくあたたかくて、疲れている心にふんわりとしみ込んできました。読んでいる方も少し幸せになれる素敵な物語です。日常の忙しさにちょっと疲れている方にもおすすめです。

私は書店でアルバイトをしており、読んで良かった本はPOPを作る癖がついているのですが、例にもれずこの本も読み終わってぐわーっとPOPを作ったのです。そして、ついったーに写メをあげたら…。なんと、村山先生ご本人からお返事がきまして!!!RTまでしていただけるという稀有な経験をしてしまいました!

夜中にドキドキで壊れそうになりながら(笑)村山先生と少しお話させてもらったのですけれども、この素敵なお話がもっとたくさんの人に読まれるといいなと心から思いました。そして、そんな手助けができたらいいなと、アルバイトのくせになんですが、本当に思いました。

あぁ。やっぱり、本のそばで生きていきたいと再再再確認(笑) そろそろ就職浪人になりそうで怖いのですけれども、うーん…。やっぱり私が譲れないものは「本」だなぁ、と思います。